結論から書くと、人事とITのあいだを行き来する「越境キャリア」は、どちらか片方に留まり続けるよりも市場価値を高めやすいキャリア戦略です。僕自身、新卒でITエンジニアとしてキャリアを始めて、コンサル、事業会社の人事、情報システム部門、そして再び人事部門と、人事とITの境界線を何度も越えてきました。この記事では、その実体験をもとに「人事からITへ」「ITから人事へ」越境する具体的な方法と、失敗しないための注意点を書きます。
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僕のキャリアは「人事とITの往復」でできている
まず前提として、僕のキャリアを簡単に書きます。
- 2013年:新卒でSIerに入社。SAPの人事モジュール(HCM)のエンジニアとして、ABAP開発やオフショア開発を担当(年収450万円)
- 2017年:外資系コンサルに転職。SuccessFactorsという人事システムの導入コンサルに(年収700万円)
- 2018年:大手エネルギー会社の人事部門へ。人事制度やシステム統合のPMO・PMを担当(年収800万円+社宅)
- 2020年:経営統合により転籍。人事システムの統合や関係会社の規程審議を担当(年収〜1,000万円+社宅)
- 2025年:大手飲料グループのDX部門へ。約50億円規模の人事システム刷新プロジェクトのPMを担当(年収1,050万円)
- 2026年:大手電機メーカーの人事部門でHR DXを担当。スキルベース人材管理の浸透を進めています(年収1,100万円+社宅)
整理すると、IT→コンサル→人事→IT→人事。きれいに往復しています。最初から狙っていたわけではありませんが、振り返ると「境界を越えるたびに市場価値が上がった」のは間違いありません。年収の詳しい推移は30代で5回転職した僕の年収推移を全公開にまとめているので、興味があればどうぞ。
なぜ越境キャリアの市場価値は高いのか
理由はシンプルで、「両方の言葉を話せる人」が圧倒的に少ないからです。
人事システムの導入プロジェクトを思い浮かべると分かりやすくなります。人事側は「等級制度」「評価プロセス」の話をし、IT側は「データ連携」「権限設計」の話をします。お互いに悪気はないのに会話が噛み合わず、要件定義が迷走する。これは僕が何度も見てきた光景です。ここで両者の「翻訳者」になれる人がいるかどうかで、プロジェクトの成否が変わります。
そしてHRテック市場は拡大を続けており、人事と ITの両方が分かる人材への需要は増える一方なのに、供給はほとんど増えていません。市場価値は需要と供給で決まるので、希少な掛け算スキルを持つ人の価値は自然と高くなります。この構造については人事システム(HRテック)人材の市場価値が高い理由で詳しく書きました。
人事からITへ越境する方法
社内の人事システムプロジェクトに手を挙げる
いきなり「IT部門に転職」はハードルが高いので、まずは社内で越境するのが現実的です。人事システムの導入・刷新プロジェクトが立ち上がったら、業務側メンバーとして必ず手を挙げてください。要件定義の場では、人事業務を深く知っていること自体が強力な武器になります。ITスキルは後から付いてきます。
PMO・進行管理から入る
技術が分からなくても、課題管理・スケジュール管理・会議体運営といったPMOの仕事はできます。僕も人事部門にいた頃、制度とシステム統合のPMOからPMへとステップアップしました。プロジェクトの中で「ITベンダーが何を言っているか」を理解できるようになれば、それはもう立派な越境です。PMO経験の市場価値については別記事でも触れますが、転職市場での評価は想像以上に高いです。
システムの「使い方」ではなく「作り方」に興味を持つ
同じプロジェクトにいても、「言われた通りテストする人」と「なぜこの設計なのかを聞く人」では、数年後に大きな差がつきます。ベンダーやコンサルに質問しまくるのは無料でできる最高の学習です。
ITから人事へ越境する方法
業務領域の専門性を作る
エンジニアが人事に越境する最短ルートは、人事領域のシステム(SAP HCM、SuccessFactors、Workdayなど)の経験を積むことです。僕はSAP HCMのABAP開発からキャリアを始めましたが、「技術も業務も分かる」状態になると、コンサルや事業会社の人事部門から声がかかるようになります。
コンサルを経由する
SIerから直接事業会社の人事へ、はなかなか通りにくいのが実情です。僕は間に外資コンサルを挟みました。コンサルでは業務要件を握る立場になるため、「IT寄りの人」から「業務が分かる人」への転換が一気に進みます。このルートの詳細はSIerから外資コンサルに転職した話に書いています。
越境転職で失敗しないための3つの注意点
1. 一気に飛ばず「半歩」ずらす
エンジニアからいきなり採用担当、のような大ジャンプは失敗しやすいです。僕の転職はすべて「前職の経験の半分が使える」場所への移動でした。SAP HCMエンジニア→人事システムコンサル→人事部門のシステムPMO、という具合に、半歩ずつずらすのが安全です。
2. 肩書ではなく「再現性のあるスキル」で語る
面接で「人事をやっていました」「開発をやっていました」では通りません。「制度とシステムの両面から統合プロジェクトを推進できます」のように、次の会社で何が再現できるかを語れる形に棚卸ししておきます。
3. 越境直後は年収が伸びないこともあると割り切る
越境した直後は「その領域では新人」なので、年収が横ばいになることもあります。ただ、掛け算が完成した後の伸びが大きいのが越境キャリアの特徴です。目先の数十万円より、3年後のポジションで判断することをおすすめします。
次の一歩|越境キャリアを考える人向けの転職サービス
越境キャリアは求人票のタイトルだけでは見つけにくいので、幅広い求人を横断的に見られる環境を作っておくのが大事です。
まず登録しておきたいのはリクルートエージェント。求人数が多く、人事系とIT系の両方の求人を一度に比較できるので、「自分の経験がどちらの市場でどう評価されるか」を掴むのに向いています。
IT側へ越境したい人には、IT・Web業界に特化したギークリーが向いています。人事業務の知見を「業務理解のあるIT人材」として説明してもらえるので、未経験寄りの越境でも話を進めやすいはずです。
→ IT・WEB・ソーシャルゲーム業界への転職ならGEEKLY(無料転職相談)
IT側でエンジニアとしての専門性を軸に据えるなら、ITエンジニア専門のテックゴーも選択肢に入ります。模擬面接の回数に上限がないため、業務は語れるが技術の実績を言語化しにくい越境組と相性が良いです。
外資系やグローバル企業では、人事とITを横断するポジションが職務記述書の形で明確に定義されていることがあります。日系より役割の線引きがはっきりしているので、自分の掛け算がどう値付けされるかを確かめる材料になります。
僕のようにSAP領域(HCMやSuccessFactors)の経験がある人なら、SAP特化のSAPテンショクを使うと、掛け算スキルをそのまま評価してくれる求人に出会いやすいと感じます。
越境の値段:実際にいくら変わるのか
掛け算が効き始めたのは3回目以降の転職でした。人事からDX部門へ移ったときが1,050万円、人事(HR DX)で1,100万円に社宅がつく形です。単体スキルの相場を超えた値がつくのは、能力が高いからではなく代わりが立たないからです。
金額の動き方には規則性があります。人事だけ、ITだけで評価される場面では、その職種の相場レンジの中で決まります。ところが両方を実務でやっていると、比較対象がいないので相場そのものが適用されません。ここが越境の値段が跳ねる理由です。
ただし越境の直後は上がりません。1回目、2回目の転職では横ばいか微増でした。掛け算の片側を仕込んでいる期間は、市場から見れば「どっちつかず」に見えるからです。年収推移の全記録は30代で5回転職した僕の年収推移にまとめています。
まとめ
人事とITの越境キャリアは、「両方の言葉を話せる翻訳者」という希少ポジションを作る戦略です。人事からITへは社内プロジェクトへの参画とPMOから、ITから人事へは業務領域の専門性づくりとコンサル経由が現実的なルート。一気に飛ばず半歩ずつずらしながら、再現性のあるスキルを積み上げていけば、市場価値は着実に上がっていきます。僕自身がその生き証人なので、境界の手前で迷っている人は、まず半歩だけ踏み出してみてください。
よくある質問
人事からIT職へ未経験で転職できますか?
完全未経験での直接転職は難易度が高いですが、人事システムの導入プロジェクト経験を社内で積んでから転職する「二段階方式」なら十分可能です。人事業務の知識そのものがIT側で武器になります。
ITから人事に移ると年収は下がりますか?
一般的な人事職に移ると下がるケースもありますが、人事システムやHRテック領域を軸にすれば、IT時代の経験がそのまま評価されるため、維持または上昇が狙えます。僕の場合は越境のたびに年収が上がりました。
越境キャリアはどんな人に向いていますか?
「今の専門領域だけで戦い続けることに不安がある人」「隣の領域の仕事に口を出したくなる人」に向いています。逆に、一つの専門を深掘りすること自体が好きな人は、無理に越境する必要はありません。


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