転職エージェントの紹介で入った会社を、数か月で辞めることになった。このとき最初に浮かぶのが、企業からエージェントに支払われた紹介手数料はどうなるのか、その一部を自分が請求されるのではないか、という不安です。
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先に結論を書きます。返金の話が動くのは企業とエージェントの間だけで、求職者本人に返金の義務が生じることは職業安定法上ありません。ただし、お金が動かないことと、何も起きないことは別です。
この記事では、紹介手数料が法律上どう決まっているか、返金規定がどこに書かれているか、そして早期退職のときに実際に何が動くかを、採用側で人材紹介の基本契約書を見てきた立場から整理します。制度の記述は2026年8月時点のものです。
結論:返金を求められるのは企業であって、あなたではない
有料職業紹介事業者が受け取れる手数料は、職業安定法第32条の3で二種類に限定されています。上限制手数料と届出制手数料の二つで、これ以外はいかなる名義でも受け取ってはならないと定められています。実費という名目でも受け取れません。
そして求職者からの手数料徴収は、原則として禁止されています。例外として認められているのは、芸能家、モデル、科学技術者、経営管理者、熟練技能者に限られ、しかもそれぞれ上限額が決まっています。一般的な事務職や技術職の転職では、そもそも徴収が認められる余地がありません。
この禁止には罰則が付いています。認められた場合以外に求職者から手数料を取った者は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられる場合があります(同法第65条第2号)。
したがって「入社後すぐ辞めたので、手数料の一部を負担してほしい」という請求が求職者に届くことは、制度として想定されていません。仮にそうした連絡が来た場合は、支払う前に管轄の労働局に相談する話になります。
詳細は厚生労働省の職業紹介事業の業務運営要領の「第6 手数料」にまとまっています。
返金規定は、法令には書かれていない
ここが誤解されやすいところです。「入社3か月以内に辞めたら手数料の何割が戻る」という取り決めは、法律にも厚生労働省の要領にも定めがありません。企業とエージェントが結ぶ基本契約書のなかの、民間の取り決めです。
法令に根拠がないということは、内容が会社ごとに違うということです。実務で見てきた範囲でも、次のような点が契約によって分かれます。
- 返金の対象になる在籍期間(1か月・3か月・6か月など)
- 期間に応じて返す割合が段階的に下がるのか、一律なのか
- 返金ではなく、無償で次の候補者を紹介する「フリーリプレイス」で処理するのか
- 自己都合退職と会社都合退職で扱いを分けるのか
- 試用期間中の本採用見送りを、どちらの都合として数えるのか
そして自分の入った会社の契約がどうなっているかを、求職者の側から確かめる方法は通常ありません。企業とエージェントの基本契約書は、当事者以外に開示されるものではないからです。
知る方法がない以上、返金率を気にしても行動は変わりません。気にする意味があるのは、次に書く3つのほうです。
早期退職で実際に動くのは、この3つ
お金の請求は来ませんが、その代わりに3か所で別のことが動きます。
1. 企業:お金は一部戻るが、かけた時間は戻らない
返金規定が働けば、企業には手数料の一部が返ってきます。ただし企業側にとって痛いのは、実はそこではありません。募集要件の設定、書類選考、複数回の面接、条件のすり合わせ、受け入れ準備、そして入社後の教育に投じた工数は、返金されません。
採用担当者から見ると、半年前に埋めたはずの席がもう一度空き、同じ工程をやり直すことになります。返金額よりも、この巻き戻しのほうが重く受け止められます。
2. エージェント:計上済みの売上が取り消される
エージェント側では、入社日に計上した売上が期をまたいで取り消されます。担当者個人の実績からも引かれます。返金は会社の会計処理の話ですが、実績の取り消しは担当者の評価に直接効きます。
ここが、早期退職の連絡に対する担当者の反応が硬くなる理由です。感情の問題ではなく、その人の数字が動いています。
3. あなた:次の紹介の温度が変わる
本人に金銭の負担は生じませんが、そのエージェントの中では「短期で離職した候補者」として扱われます。次に登録したときの紹介の出方が変わることはあります。
ただしこれは、業界共通の名簿に載るという話ではありません。エージェント各社は競合関係にあり、候補者情報を共有する仕組みはそもそも存在しません。この点はエージェントの面談をブッチするとどうなるのかで詳しく整理しています。
3つのうち、自分でどうにかできるのは3番目だけです。そして3番目に効くのは、次にどこへ応募するかの選び方です。
エンワールド・ジャパンに登録して、次の求人の条件を確認する(外資系・グローバル企業の求人が中心のエージェントです。登録すると担当者との面談日程の案内が届きます)
紹介手数料は、そもそもいくら動いているのか
ここまでは求職者側から見た話でした。ここからは、企業とエージェントの間で実際に動いている金額を見ておきます。返金率という言葉が指しているのは、この金額に対する割合だからです。
上限制手数料は、6か月分の賃金の11.0%
厚生労働省の定めた枠内で徴収する方式です。紹介した人に支払われた6か月間の賃金の11.0%が上限になります。月給40万円なら6か月で240万円、その11.0%で26万円前後という水準です。
届出制手数料は、届け出た手数料表の範囲で自由
厚生労働大臣にあらかじめ届け出た手数料表の額を徴収する方式です。事業者が自由に設定できますが、申請の実務上は50%を超える設定は受け付けられない扱いになっています。
実際に転職市場で使われているのは、ほぼこちらです。相場は理論年収の30〜40%あたりに集まっています。理論年収は、交通費を除く諸手当を含んだ年収です。想定年収500万円で35%なら175万円が動きます。
この金額に対して、在籍していた期間に応じた割合が戻る、というのが返金規定の中身です。では期間で何がどう変わるのか、次に整理します。
在籍期間で、何がどう変わるか
契約次第という前提のうえで、実務でよく見る段階を整理します。
| 入社からの期間 | 企業とエージェントの間で起きやすいこと |
|---|---|
| 1か月以内 | 返金率が最も高く設定されていることが多い。フリーリプレイスで処理される場合もある |
| 1〜3か月 | 返金率が段階的に下がる。3か月を区切りにしている契約が多い |
| 3〜6か月 | 6か月まで設定している契約では、この帯の返金率は低め |
| 6か月以降 | 返金の対象外としている契約が大半 |
注意したいのは、この期間があなたの意思決定の期限ではないということです。返金の区切りに合わせて在籍を延ばしても、戻るのは企業のお金であって、あなたの時間ではありません。
むしろ在籍が長引くほど、次の職務経歴書に書ける実績がないまま在籍期間だけが伸びる状態になります。判断の材料にすべきなのは契約上の月数ではなく、その職場で自分が何を積めるかのほうです。
辞めると決めたとき、エージェントに伝えるか
伝えないという選択も現実にはありますが、企業から退職の連絡が行くため、結果的には必ず伝わります。返金規定が働く以上、企業には連絡する理由があるからです。
先に伝えておくと、次の2点で違いが出ます。
- 退職理由を、企業経由の伝聞ではなく自分の言葉で残せる
- 次に同じエージェントを使う場合に、事情を共有した状態から始められる
伝える内容は長くなくてかまいません。退職を決めたこと、時期、理由を一文ずつで足ります。謝罪を重ねる必要はありません。担当者が知りたいのは、いつ席が空くかと、次にどう動くかの2点です。
逆に、退職を検討している段階で相談するのは慎重に考えたほうがよい場面があります。担当者にとって在籍の継続は返金の回避と直結しているため、引き止める方向の助言が出やすくなります。相談相手としては、利害が重ならない人のほうが向いています。
次の応募で見ておく2点
1年目の評価が想定より低く出ることも、辞めるかどうかを考えるきっかけになります。ただしその評価には制度側の要因が混ざっているため、中途入社1年目の評価はなぜ低くなるのかで分けて読んだうえで判断したほうが材料は揃います。
早期退職の多くは、入社前に確定していなかったことが入社後に出てくる形で起きます。次に応募するときに確認しておくと差が出るのは、次の2点です。
1. 内定条件のうち、書面になっているのはどこまでか
労働条件通知書に書かれるのは、賃金、労働時間、就業場所、業務内容などです。一方で、配属チーム、担当範囲、上長が誰か、裁量の広さといった項目は、面談で口頭で語られただけということが起こります。入社後に食い違いが出るのは、ほぼこの範囲です。
提示された金額の内訳がどう組まれているかは、オファー年収の内訳で整理しています。
2. 面談で言わなかった条件はなかったか
譲れない条件を伝えないまま進むと、その条件に合わない求人が紹介され、そのまま入社まで行ってしまいます。伝えにくい条件ほど、早い段階で出しておいたほうが、結果として合う求人に当たります。
短期間で辞める場合も、退職日の設定による社会保険料と住民税の扱いは同じように効きます。詳しくは退職月の給与明細で手取りが減るのはなぜ?で説明しています。
まとめ
- 紹介手数料の返金は、企業とエージェントの間の話で、求職者本人が請求されることはない(職業安定法第32条の3、第65条)
- 返金規定は法令ではなく、企業とエージェントの基本契約に書かれた民間の取り決め。期間も率も会社ごとに違い、求職者が知る方法はない
- 実際に動くのは、企業の工数、担当者の実績、そのエージェント内での自分の扱いの3つ
- 契約上の区切りに合わせて在籍を延ばしても、戻るのは企業のお金であって自分の時間ではない
よくある質問
転職エージェント経由で入社した会社を早期退職すると、手数料の返金を請求されますか
求職者本人が請求されることはありません。職業安定法では、有料職業紹介事業者が求職者から手数料を受け取ることは原則として禁止されており、認められた場合以外に徴収した者には6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が定められています。返金の話が動くのは、企業とエージェントの間の契約に基づくものです。
何か月以内に辞めると返金の対象になりますか
法令上の定めはなく、企業とエージェントが結ぶ基本契約によって決まります。入社後3か月または6か月を区切りとする契約が多く、期間が短いほど返金率が高い形が一般的ですが、契約書は当事者以外に開示されないため、求職者が事前に知る方法はありません。
試用期間中に辞めた場合も同じ扱いになりますか
契約によって分かれます。試用期間中の退職を自己都合として扱う契約もあれば、本採用の見送りを会社都合として別に定めている契約もあります。いずれの場合も、求職者本人に金銭の負担が生じない点は変わりません。
早期退職したエージェントに、もう一度登録できますか
登録そのものが制度的に拒まれることはありません。ただし社内では短期離職の記録が残るため、紹介の出方が以前と変わることはあります。業界共通の名簿は存在せず、他社での登録や応募に影響することはありません。
退職を会社に伝える前に、エージェントに相談してもよいですか
相談すること自体に問題はありませんが、担当者にとって在籍の継続は返金の回避と直結しているため、引き止める方向の助言が出やすくなります。判断そのものについては、利害が重ならない相手に相談したほうが材料が揃います。


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