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社内公募の要項を読んでいて、募集要件がやけに細かいことに気づくことがあります。求める経験が3つも4つも並び、その組み合わせを満たす人が社内に何人いるのかと考えると、心当たりのある顔が浮かんでしまう。応募する前から、結果が決まっているのではないかという疑いが残ります。
制度を作って回す側から言うと、先に候補者の当たりがついた状態で公募にかけること自体は珍しくありません。ただしそれは選考をごまかすためではなく、公募を通さないと発令できない設計になっているからです。この記事では、なぜその状態が生まれるのか、そして本命がいる公募に応募することが無駄になるのはどういうときかを説明します。
「出来レース」と呼ばれる状態は、2つに分かれる
同じように見えて、中身が違うものが混ざっています。
ひとつは、受入先が公募を出す前に特定の人に声をかけていて、その人を採る前提で要項が書かれている状態です。要件は本命の経歴に合わせて書かれ、選考は形式として行われます。これが本来の意味での出来レースにあたります。
もうひとつは、受入先の中に有力な候補がいて、公募で出てきた人と実際に比較される状態です。こちらは結果として内部の候補が通ることが多いものの、選考そのものは動いています。応募者から見える景色は同じですが、起きていることは違います。
この2つを分けておかないと、「応募しても無駄だった」という結論だけが残ります。実務で多いのは後者です。
本命がいても公募にかけるのは、制度がそれを要求しているから
本命がいるなら公募を出さずに異動させればいい、と考えるのが自然です。実際にはそれができない会社があります。
公募を通さないと発令できない設計になっている
異動には、上長間の調整で決まる通常異動と、公募を経由する異動の2つの経路があります。会社によっては、この2つで手続きが完全に分かれています。
受入先が特定のポストに人を置きたいとき、通常異動の経路が使えないことがあります。部門をまたぐ、等級が動く、要員枠が別の部門に紐づいている。こうした条件が重なると、通常異動では稟議が通りません。結果として、候補が決まっていても公募という経路を使うしかなくなります。
「公募にかけた」という記録が必要になる
ポストの充足には、選考の公正性を説明できる記録が求められます。とくに管理職ポストや、社内で希望者が多いことが分かっている部署では、後から「なぜあの人だったのか」を問われる場面が出てきます。
公募にかけて応募者を選考した記録があれば、その説明ができます。逆に記録が無いと、通常異動で決めたこと自体が問題になりかねません。本命がいることと、公募を出すことは、人事の手続き上は矛盾しません。
要員計画の締め切りが公募の時期を決めている
公募の開催時期は、要員計画のサイクルに紐づいていることがほとんどです。次期の枠が確定した直後に募集が出て、期の切り替えに間に合うよう選考が組まれます。
この日程に本命の都合が合わないと、先に声をかけておいて公募の枠に乗せる形になります。順番が逆に見えるのは、制度の日程のほうが先に決まっているためです。
出来レースが起きやすい会社の条件
すべての会社で同じ頻度で起きるわけではありません。構造で決まります。
ひとつ目は、受入先が候補者の情報に先にアクセスできる会社です。人材データベースやタレントマネジメントの仕組みが部門長に開放されていると、公募を出す前に社内を探せます。仕組みとしては正しく機能していますが、公募より前に候補が絞られます。
ふたつ目は、公募が要員充足の主要な手段になっている会社です。公募でしか人を動かせない運用にすると、通常異動で済むはずの案件まで公募に流れ込みます。母数が増えるぶん、本命が先にいる案件の割合も増えます。
三つ目は、公募の実績を件数で管理している会社です。年間の公募件数や成立件数が人事部門の目標になっていると、確実に埋まる案件を公募に回す動機が働きます。
要件の細かさで読めるところと、読めない3つのケース
募集要件が特定の経歴に寄せて書かれているときは、想定されている人がいる可能性が高い。これは有力な手がかりです。ただしこの読み方が当たらないケースが3つあります。
1つ目は、受入先が過去の失敗を要件に書き込んでいるケースです。前任者が短期で外れた、想定していた業務ができなかった。こうした経験があると、要件が防御的に細かくなります。特定の誰かではなく、特定の失敗を避けるために書かれています。
2つ目は、本命が辞退したケースです。声をかけた相手が現部署の事情や家庭の事情で動けなくなることがあります。要項はそのまま公開され、選考だけが本当に開きます。公募の途中でこの入れ替わりが起きても、応募者には何も伝わりません。
3つ目は、複数ポストの玉突きが絡んでいるケースです。関連する複数のポストを同時に動かす計画があると、1つのポストの結果が別のポストの結果に依存します。特定の人を想定しているように見えて、実際には組み合わせの問題を解いている途中である場合があります。
いずれも要項の書き方は本命がいる場合とほとんど同じになります。要件の細かさは入口の手がかりにはなりますが、そこから先は応募者の側から区別がつきません。区別がつかないという前提で、次の判断をすることになります。
応募が無駄になる場合と、ならない場合
本命がいる公募に応募したとき、何が残るかは会社の運用で変わります。
無駄になりやすいのは、応募者の情報が選考の終了とともに破棄される運用の会社です。公募ごとに応募書類を受け取り、決定後に人事の受付側で閉じる。この形だと、次の公募でゼロから始まります。
残るのは、次の3つのどれかがある場合です。
ひとつは、応募履歴が人材データに紐づいて保存される運用です。スキルベースの人材管理を導入している会社では、公募への応募が本人の異動意向として記録され、別のポストが空いたときの検索対象になります。この場合、落選しても情報は残り続けます。
ふたつは、受入先の部門長に名前と経歴が届いている場合です。選考に進んだのであれば、書類は読まれています。同じ部門で次の枠が出たときに、一度会っている人と初見の人では扱いが変わります。
三つは、面接まで進んだ場合の記録です。面接の評価は公募単位ではなく、人事側に選考記録として残ることがあります。次の公募で同じ評価者に当たったとき、前回の内容が参照されます。
自社が残る運用なのか残らない運用なのかは、公募要領の「応募情報の取扱い」にあたる節を読むと分かります。保存期間や利用範囲が書かれていれば残る運用、何も書かれていなければ確認が必要です。
社内では動けないと判断したときに、確認しておくこと
公募の構造が読めてくると、社内で動ける範囲がどのくらいかも同時に見えてきます。等級の刻み方、ポストの空き方、公募の頻度。これらは会社ごとに設計が違い、自社の設計が自分に向いているとは限りません。
社内の1ポストだけを見て判断すると、比較対象が無いまま結論を出すことになります。人事・管理部門の専門職であれば、同じ領域を扱うエンワールド・ジャパンのような専門特化型のエージェントで社外のポストを並べておくと、社内公募の条件が相対的にどの位置にあるのかを確認できます。
比較したうえで社内に残ると決めるのであれば、それは同じ結論でも根拠が違います。次の公募まで待つ期間の使い方も変わります。
社内では動けないと判断したときも、外の求人がすべて見えているわけではありません。採用側は最初に1〜2社へ絞って出し、決まればそのまま他社には出ません。求人がどこに出るかを採用側が決めている話を先に読んでおくと、届かない期間の受け止め方が変わります。
まとめ
本命がいる状態で公募にかけることは、制度上は矛盾しません。通常異動の経路が使えない、選考の記録が必要になる、要員計画の日程が先に決まっている。この3つのどれかが効いていると、候補が決まっていても公募が出ます。
要件の細かさは手がかりになりますが、そこで確定はしません。防御的に書かれた要件、本命の辞退、複数ポストの玉突き。応募者から見える景色が同じでも、中で起きていることは違います。
判断すべきなのは出来レースかどうかではなく、応募した情報が自社の運用で残るかどうかです。残る運用であれば、その公募で落ちても次につながります。
よくある質問
Q. 募集要件が細かい公募は、出来レースだと考えていいですか
手がかりとしては有力です。ただし前任者が短期で外れた経験のあるポストでも、要件は防御的に細かくなります。同じ部門の過去の公募と比べて要件の書き方が急に変わっていれば、想定されている人がいる可能性は上がります。
Q. 本命がいる公募だと分かったら、応募を取り下げたほうがいいですか
取り下げの前に、応募情報が自社でどう扱われるかを確認することをおすすめします。人材データに残る運用であれば、選考に進んだ記録そのものが次の機会につながります。残らない運用であれば、取り下げても失うものは少ないと言えます。
Q. 出来レースだったかどうかを、人事に聞くことはできますか
選考の経緯は原則として開示されません。ただし「このポストは過去に公募されたことがあるか」「応募情報の保存期間はどのくらいか」は、制度の運用に関する質問なので回答が得られることがあります。
Q. 受入先の中に候補がいる場合、他部署から応募しても勝ち目はありませんか
比較が実際に行われているケースでは、受入先が求めているのは特定の人ではなく特定の成果です。部門内の候補が持っていない経験を書類で示せていれば、選考は動きます。ここは要件の一致度ではなく、書き方で差がつく部分です。
Q. 落選した公募と同じポストが、次の期にまた出ていました。応募していいですか
同じポストの再掲は、前回の選考が成立しなかったことを示しています。本命が辞退した、あるいは充足できなかったという意味なので、前回より条件は良くなっている可能性があります。ただし応募回数の制限が要項にある場合は、そちらが先に効きます。


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