退職を伝えて引き止められ、条件を提示されて残ることにした。その直後から、なぜか仕事が少し楽になる。数か月経つと元に戻る。この動きには理由があります。
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先に結論を書きます。残った直後に負荷が下がるのは、待遇が改善したからではありません。退職前提で進んでいた引き継ぎが途中で止まり、渡した業務が戻ってくるまでに時間がかかるためです。3〜6か月で元の水準に戻ります。一方で、後任の採用枠と上司の計画は、そのまま戻らないことがあります。
人事として、退職の申し出とその撤回を処理する側にいた経験から、会社の中で何が動いて何が止まるのかを整理します。引き止めを受けるかどうかの判断そのものは退職の引き止め(カウンターオファー)は会社側でどう決まるのかにまとめてあるので、この記事は残ったあとの話に絞ります。
残った直後に楽になるのは、引き継ぎが止まるから
退職の意思が伝わった時点で、部門は引き継ぎを始めます。担当していた案件は複数人に割り振られ、定例の出席者が入れ替わり、社外の窓口も差し替えの連絡が飛びます。ここまでは数週間で進みます。
撤回されると、この流れが途中で止まります。ただし止まるだけで、巻き戻るわけではありません。渡した先から戻すには、もう一度引き継ぎをやり直す必要があり、受け取った側の予定も動かすことになります。急いで戻す理由を持つ人がいません。結果として、しばらく手が空きます。
撤回のあとに動く4つの場所と、その速さ
1. 後任の採用要求
退職の申し出があると、部門は欠員補充の要求を出します。人事はこれを要員計画上の欠員として扱い、募集を開始します。撤回されれば、この要求は取り下げられます。取り下げは連絡1本で済みます。
問題はその後です。半年後に「やはり人を増やしたい」と言うと、それは欠員補充ではなく増員の申請になります。増員は期の予算審議に載るため、通すまでの段数が違います。欠員補充なら部門長の判断で進む会社でも、増員は役員決裁というところが少なくありません。
2. 分解された業務
割り振られた業務のうち、定型的で説明しやすいものは、そのまま定着することがあります。受け取った側が慣れてしまうと、急いで戻す動機が働かなくなるためです。逆に判断が要る業務は戻ってきます。代わりに持てる人がいないからです。
結果として、手元に残るのは判断の重い仕事の比率が高い状態になります。総量は元に戻っても、中身の構成が変わっていることがあります。
3. 要員計画上の枠
期初に部門ごとの人数枠が決まっている会社では、退職予定が入った時点で翌期の枠がその前提で組まれることがあります。撤回のタイミングが枠の確定より後になると、翌期は枠に対して1人多い状態になります。
この調整は、別の場所で行われます。新卒の配属が1人減る、中途採用の枠が止まる、といった形です。当人には見えない場所で処理されるため、気づくのは翌期に入ってからになります。
4. 上司の来期の計画
上司は、あなたが抜ける前提で来期の役割分担を考えています。残ることになれば計画は書き直されますが、書き直しの結果として以前と同じ役割に戻るとは限りません。主要案件のリードが他の人に移ったままになることがあります。
これは能力の評価が下がったからではなく、計画を二度変えるコストを避けた結果です。ただし本人からは区別がつきません。ここが、残ったあとに納得しづらくなる場所です。
時系列で並べると、いつ元に戻るのか
| 時期 | 会社側で起きていること | 本人の実感 |
|---|---|---|
| 直後〜1か月 | 引き継ぎが停止する。採用要求が取り下げられる | 負荷が下がる |
| 1〜3か月 | 判断の要る業務が戻る。定型業務は移ったまま | 戻りつつあるが余裕はある |
| 3〜6か月 | 負荷は元の水準。後任の枠は復活していない | 状況が変わっていないと気づく |
| 6か月以降 | 期の切り替えで役割が再設定される | 役割が以前と違うことが確定する |
「残ってよかった」と感じやすいのは、最初の1〜3か月です。この期間の実感は、条件が改善した効果ではなく、引き継ぎが止まった副作用として出ています。ここで結論を出すと、3〜6か月後に同じ判断をもう一度することになります。
逆に言えば、負荷が戻った時点での状態が、残ったことの本当の結果です。提示された条件が反映され、役割の再設定も終わったあとなので、比較の材料が揃っています。
その時点で市場側の条件を並べておくと、社内の変化だけで判断せずに済みます。エンワールド・ジャパンで外資系・グローバル企業の求人を確認する(残ったまま条件を比べる用に)
もう一度動くときに、前回と変わること
前回の選考を受けた企業には記録が残っている
選考を辞退した企業には、応募者管理システムに過去の選考結果と辞退の記録が残ります。再応募そのものを禁じている企業は多くありませんが、一定期間を空ける運用を置いているところはあります。
辞退の理由を「現職の引き止め」と伝えていた場合、同じ企業を再度受けると、同じ結果になるのではという見方をされます。ここで効くのは伝え方ではなく、前回と状況が変わったことを事実で示せるかどうかです。役割が変わった、提示された条件が反映されなかった、といった具体が要ります。
エージェント側にも推薦履歴が残る
エージェントの管理画面には、過去の推薦先と結果が残ります。同じ会社に再度登録すれば、担当者が変わっても履歴は引き継がれます。前回の経緯を伏せても、推薦の段階で企業側の記録と突き合わされます。
先に共有したほうが、推薦先の選定が速くなります。エージェント側は、前回辞退した企業を避けて組み直すか、事情を添えて再推薦するかを判断できるためです。
社内で状況を変える経路が残っているか
引き止めで動いたのは、多くの場合は条件です。役割や上司や仕事の中身は、そのまま据え置かれます。辞めたい理由が金額だった人にとっては解決しますが、理由がそれ以外だった人には何も変わっていません。
役割を変える社内の経路は、異動の希望申告と社内公募の2つです。どちらも上司の合意が要る場面があり、引き止めの直後は特に扱いが難しくなります。会社側から見れば、例外的な処遇改善を通した直後に本人が別部署へ動くのは、通した理由と整合しないためです。
社内公募がいつ上司に伝わるかは制度の設計次第で、応募の段階で伝わる会社と、選考が進んでから伝わる会社があります。仕組みは社内公募は上司にいつ伝わるのかで整理しています。順番として、この経路は退職を切り出す前に試したほうが通りやすくなります。
同じことを繰り返さないために、次の会社で見る2点
引き止めで残る状況が生まれる背景には、給与が動く仕組みが会社ごとに違うという事情があります。次に選ぶときに見ておくと、同じ流れになりにくくなります。
1点目は、給与改定のタイミングです。年1回の定期改定しか持たない会社では、入社後に評価が上がっても反映は最大で1年先になります。期中の改定を制度として持っている会社なら、待つ期間が短くなります。
2点目は、等級と役割の紐づけ方です。等級が役割で決まる会社では、役割が変わらない限り金額も動きません。人に等級がつく会社では、役割が同じでも昇格で動くことがあります。この違いは、入社後に何をすれば上がるのかを左右します。
どちらも求人票には書かれていない項目で、面談で聞き出す領域になります。エージェントが年収の交渉そのものには踏み込めない理由と合わせて、転職エージェントが年収交渉してくれない理由で扱っています。
残ったあとの半年で見ておく2つ
1つは、提示された内容が実際に反映された月です。期中の改定として処理されたのか、次の定期改定を待つ形になったのかで、意味が変わります。給与明細で確認できます。金額がどう組み立てられているかはオファーの年収は何でできているのかで分解しています。
もう1つは、来期の役割分担で自分の名前がどこに載ったかです。組織図や案件のアサイン表が出た時点で、計画がどう書き直されたかが見えます。ここが以前と同じなら、巻き戻りは完了しています。
役割の再設定が終わったあとであれば、社内で何が変わって何が変わらなかったかを具体で書き出せます。前回の選考先に伝える材料も、この時点で揃います。
引き止めを断って辞めると決めた場合、次に来るのが有給消化の日程です。会社が時季変更権の代わりに出す3つの提案を知っておくと、押し引きが短く済みます。
よくある質問
Q. 引き止めで残ったことは、次の転職で不利になりますか?
職務経歴書に書く事柄ではないため、応募先の大半には伝わりません。影響が出るのは、前回選考を受けて辞退した企業を再度受ける場合に限られます。
Q. 残ったあと、どのくらい経ってから判断するのが妥当ですか?
負荷が元の水準に戻り、提示された条件が給与に反映されたあとです。この記事で挙げた3〜6か月が、その目安にあたります。
Q. 一度上がった年収が、あとから下がることはありますか?
期中の例外的な改定として処理された場合、翌期の定期改定で伸びが抑えられる形の調整が入ることがあります。金額そのものの引き下げは就業規則の定めによります。
Q. 後任の採用はいつ再開されますか?
撤回の時点で欠員ではなくなるため、その後の募集は増員の申請として扱われます。期の予算審議を経る会社が多く、再開までの段数は欠員補充より増えます。
次に動くときは、退職日をいつにするかで最後の手取りが数万円変わります。社会保険料と住民税の重なり方は退職月の給与明細で手取りが減るのはなぜ?にまとめました。
実際に辞めるときは、退職後の書類がいつ届くかも読めると計画が立てやすくなります。離職票が届かないのはなぜ?で発行の工程を書きました。
まとめ
残った直後の身軽さは、引き継ぎが途中で止まったことによる一時的なものです。判断が要る業務は1〜3か月で戻り、3〜6か月で負荷は元に戻ります。一方で、後任の採用枠と上司の計画は、そのままの形では戻りません。
会社側から見ると、撤回は例外処理です。例外を通した以上、通した理由を制度の言葉で説明できる形にする必要があり、その説明が役割や等級の再設定として表に出てきます。残ることの結果が見えるのは、この再設定が終わったあとです。


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